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Q:当社では副業・兼業を認めています。副業を認めた従業員が当社で就業中に怪我し、療養のため休業することになりましたが、その従業員から副業の仕事もできなくなったからと副業先の休業分の補償も求められています。どのように対応すべきでしょうか?
労災保険は、労働者が業務上や通勤途上における負傷、疾病、障害、死亡(負傷等)に対して、必要な保険給付を行います。災害発生時に事業主が異なる2つ以上の複数の会社と労働契約関係にある労働者(複数事業所勤務労働者)に発生した業務上災害または通勤災害に関しても、必要な保険給付は行われます。
ご相談のように副業や兼業で複数の会社に勤務する場合、いずれか1つの会社の仕事で起きた業務上災害や通勤災害が原因で休業する際の補償はどうなるのでしょうか。
業務上または通勤災害での療養のため、労務不能となって会社を休んだときには、休業補償給付〈休業給付〉が支給されます(〈 〉内は通勤災害に係る給付。以下同じ)。
休業補償給付〈休業給付〉は、原則として働いていた会社から支払われている賃金を基に保険給付の額が決まります。しかし、複数事業所勤務労働者については、業務上災害や通勤災害が発生した会社での賃金を基に保険給付の額を決定するのではなく、雇用されているすべての会社等から支払われているそれぞれの賃金の合算額を基に保険給付の額が決められることになります。
労災保険の保険給付には、現金給付で支給される休業補償給付〈休業給付〉、傷病補償年金〈傷病年金〉、障害補償年金〈障害年金〉遺族補償年金〈遺族年金〉、葬祭料〈葬祭給付〉があります。これらの保険給付は、給付基礎日額(保険給付の基礎となる日額)を基に決定されます。複数事業所勤務労働者については、それぞれの就業先の事業場で支払われている賃金の合算額を基礎として給付基礎日額が決定されることになります。
給付基礎日額は、労働基準法の平均賃金に相当し、毎月の支払われた賃金の総額を基に計算する日額をいいます。具体的には、原則として業務上または通勤途上における負傷等の原因となった事故が発生した日(算定事由発生日)の前3ヶ月間に被災労働者に対して支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の総暦日数で除した1日当たりの額となります。ただし、賃金締切日が定められているときは、算定事由発生日直前の賃金締切日から3ヶ月間に支払われた賃金総額を、その期間の総暦日数で除して算出します。
しかし、複数事業所勤務労働者の場合、算定事由が発生した会社の賃金のみで給付基礎日額を算定すると、副業・兼業先についても休業して稼得能力を喪失しているにもかかわらず、給付基礎日額は低額なものとなってしまいます。そこで、複数事業所勤務労働者に係る給付基礎日額の算定においては、原則として、算定事由発生日前3ヶ月間に支払われたそれぞれの就労先事業場から支払いを受けた賃金を合算しその総額を基に給付基礎日額を算定して、休業補償給付〈休業給付〉の額を決定されます。ただし、算定事由発生日において既に副業・兼業先で事業所を離職していて、算定事由発生日から前3ヶ月間に一部期間しか就業実態がないような場合は、その一部期間に支払われた賃金額を基に算定します。
なお、休業補償給付〈休業給付〉には3日間の待期期間があり、その間は支給されません。ただし、業務上災害の場合、災害発生の会社には当該待期時間について労働基準法上の補償義務(1日につき平均賃金の60%)があります。