M&Aロゴ

人事労務の法律教室-125
~休憩時間を削って働く社員の対応について~

Q:当社の所定労働時間は1日8時間で、昼休みの休憩時間が60分です。しかし、ある社員が残業しないために休憩時間を30分で切り上げて、終業時刻と同時に帰っています。所定の休憩時間を必ずとるよう注意をしても改善しようとしません。

労働基準法上、使用者は、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を労働時間の途中に与えなければいけません(労基法第34条第1項)。休憩の目的は、継続した労働時間の途中に休憩を与えることで、労働から一旦開放し、自由に利用させて労働者の疲労を回復させることにあります。

なお、法定の休憩時間(45分、1時間)は、まとめて与えることまでは求めておらず、労働時間の長さに応じて必要な時間を与えていれば、分割しても違法とはなりません。とはいえ、休憩時間を分割する場合でも、細切れに短時間で休憩を与えることは、実質的に労働時間とみなされるリスクがありますので注意しなければなりません。

ご相談のように、残業をしたくないなどの理由で法定の休憩時間をとることなく、自らの意思で仕事をしている労働者がいた場合、二つの問題が発生します。

一つ目は、特段、労働することを命じていない休憩時間中の労働が労働時間となるか否かです。なんら業務の指示・命令に基づくものでなければ、労働させたことにはならないという考え方も成り立ちます。しかし、判例・学説上、使用者による指示・命令が明らかなものに限定されるのではなく、いわゆる黙示の指示・命令があったと評価される場合は、労働時間になるとされています。つまり、特段の指示・命令をしないまでも、社員が休憩時間に仕事をしていることを知っているにもかかわらず放置・容認していると、事実上、休憩時間の就労を命じたに等しい状態にあると評価されることにもなり得ます。

二つ目としては、休憩時間中の労働を含めた労働時間が法定労働時間1日8時間を超える場合は、時間外労働分の割増賃金の支払い義務が生じます。従って、休憩時間中は極力就労しないよう指導・注意することが必要です。休憩を付与したとするためには、労働者が現実に労働から解放されていなければならず、よって休憩時間は仕事はしてはならないことを十分に労働者に理解させなければなりません。

しかしながら、ご相談にある労働者のように、どうしても終業時刻以降に残業をしたくないという理由で、昼の休憩時間帯の一部を仕事に充てたいという労働者がいることも考えられます。このような場合には、労働基準法上、個人の事情によって法違反を犯すことはできない旨を伝え、法律通りの休憩を取得させるべきでしょう。それでも、業務量および業務内容から残業せざるを得ないのであれば、残業を命ずるか否かを判断するべきです。その結果、必要と認められるものであれば残業を命ずるなどの対応が必要です。このような判断の下に残業を命じたにもかかわらず従わなかった場合には、業務命令違反となり懲戒処分も可能となります。

また、固定(定額)残業代を導入している会社の場合も同様の事象が発生する可能性があります。例えば、固定残業時間を20時間とした固定残業代を導入している場合、時間外労間が20時間までは、残業の有無または残業時間の長短にかかわらず固定残業代を支払わなければなりません。それに対して、残業せずに済む状態、または残業を20時間より少しでも短くすれば、固定残業代は労働者にとっては有益な賃金となります。しかし、そうした個人的な理由で昼の休憩時間に仕事をするような事態を放置すれば、会社として法違反の常態化を黙認することにもなります。したがって、休憩時間帯において仕事をしないように指導・注意を行い、それでも改善されないのであれば、懲戒処分を行うなどの対応も検討する必要があります。

○今月のポイント!
  • 個人的な理由で休憩時間帯に仕事をし、
    法定の休憩時間をとらないことは労働基準法違反となる。
    したがって、休憩時間帯に仕事をしないよう指導・注意を行い、
    それでも改善しなければ懲戒処分などの対応も検討する必要がある。
Copyrights 2008-2009 M&A Allright reserved.