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人事労務の法律教室-127
~私傷病休職中に定年を迎える社員の雇用について~

現在、定年を前にして私傷病の療養入院で休職中の従業員がいます。定年退職日までに復帰できない場合はその日をもって退職となる旨を伝えたところ、休職の残期間があるので会社に継続雇用義務があるなどと言っています。どのように対応すべきでしょうか?

高年齢者雇用安定法では、事業主に対し、65歳までの高年齢者雇用確保措置として、

  • ① 定年年齢の引き上げ
  • ② 継続雇用制度(勤務延長、再雇用)の導入
  • ③ 定年の定めの廃止
上記いずれかを講ずることを義務付けています。このうち、継続雇用制度を導入している場合には、原則として、希望者全員を対象にしなければなりません。ただし、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないことなど、就業規則に定める退職事由(年齢にかかわるものを除く)、または解雇事由に該当する場合には継続雇用の対象としないことができます(平24.11.9厚労告560)。

休職制度とは、一般に、私傷病等のため就労が不能となった場合に、雇用契約関係を維持しつつ、一定期間の就労義務を免除し、その期間中は雇用契約を解除しないとするものです。休職制度を設けるか否かの法的義務はなく、また設けた場合でも休職期間や復職の取り扱いについては、就業規則等により会社の裁量で任意に定めることができます。たとえば、私傷病が治癒することなく休職期間が満了となった場合には、自然退職とする、または解雇することも可能と言えます。定年制度とは、就業規則で定める定年年齢に達したときに労働者の意思にかかわらず自動的に雇用契約関係を終了させる制度をいいますが、休職期間中の社員が定年を迎えた場合にはその取り扱いが問題となります。

この点について、休職制度は私傷病等で労務提供不能であることを理由とする雇用契約の解除を猶予する者であり、それ以外の退職事由や解雇事由のすべてを猶予する制度ではありません。また、雇用契約の継続を前提とする休職制度は、定年退職年齢に達したことによりその前提を欠くことになるため、休職期間に残余期間があったとしても、それまでの雇用契約はいったん終了するものと考えることができます。したがって、原則として、継続雇用制度は希望者全員を対象としなければならないものですが、私傷病休職中に定年を迎えた社員は、前述の継続雇用制度の要件を定めた労使協定や就業規則に定める退職事由に該当するときは対象としないことができます。

しかしながら、定年時に休職している社員でその就業規則に定めている休職期間が定年年齢を超えている場合は、就業規則上(雇用契約上)、休職期間満了までは身分を保障していることになります。したがって、病状の悪化等によって復職が長期的に見込めないような場合でもないかぎり、再雇用制度の対象としないことはできないものと考えられます。

つまり、私傷病休職中に定年を迎える社員については、前述のように、休職期間中は身分を保障する(雇用契約を存続させる)ことが約束されたものであり、高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(平24.11.9厚労告560)でも「年齢に係る」退職事由によって継続雇用の対象としないことはできないものとされています。したがって、定年をもって雇用契約を終了させ、再雇用しないことはできないことになります。

ただし、休職期間中であっても、定年により正社員としての雇用契約はいったん終了するものの、新たな契約に基づき再雇用となるので、再雇用時に短時間勤務や有期雇用契約等に雇用契約の内容を変更することは可能です。そして、当該従業員が休職期間満了までに傷病が回復せず復職できないときは、就業規則の定めるところにより、自然退職または解雇の手続きをし、継続雇用を打ち切ることができるものと考えられます。

○今月のポイント!
  • 私傷病休職中に定年を迎えた社員であっても、定年後の再雇用制度の利用を希望しているときは、病状の回復が見込めないような場合でもないかぎり再雇用を前提に検討しなければならない。
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